川原泉の作品が好きです
私は川原泉の作品が好きです。
以前、川原泉作品について書きました。
全体の感想と「甲子園の空に笑え」を中心にですが。
時に哲学を感じさせる良作の宝庫
川原泉作品は、時に哲学的なものがあります。
哲学的と聞くと、難解であったり堅苦しい作品と思うかもしれません。
いえいえ。
とても柔らかく、それでいて心が温まったり、はっとする作品が多いんです。
ファンタジーに逃げない助けてくれない
よくおとぎ話でありますよね。
不遇の主人公を、魔法使いや妖精などのように「人知を超えた存在」が助けてくれることが。
川原泉作品では、そのパターンがまずありません。
不思議な存在の登場人物はいますが、それだけです。
基本は主人公達が、自力で解決します。(背中を押してくれるきっかけにはなりますが)
ファンタジーな存在がいても、それは助けてくれません。
ファンタジーな世界があっても、そこに逃げ込みません。
読んでホロリスッキリするのが「フロイト1/2」
「フロイト1/2」という不思議なタイトルの作品があります。
あらすじを紹介します。
小田原城址公園で出会います。そして2人だけに見える不思議な提灯屋「風呂糸屋」で、2つ1組の提灯を半分ずつ購入します。「1組の夢を2人で分け合うなんて聞いたことがないからやめておいた方がいい」という店主(フロイト)の忠告を受けますが、気にしません。
(せなゆみひこ)と小学生の篠崎梨生(しのざきりお)が、そして2人は、お互いの夢の中を行き来します。
時が過ぎ、2人は出会います。
そして二人の人生が交錯していきます。
ここまで聞くと、恋愛してハッピーエンドでしょ?と想像するかもしれません。
一般的な少女漫画なら、それで終わりでしょう。
しかし川原泉作品は、そうはいきません。
目標が自縛という呪縛になる息苦しさ
弓彦は、ある理由で多額の借金を抱えてしまいます。
その返済をするために一生懸命お金を貯めようとして、夢も希望も捨てひたすらお金を稼ぐことが人生の目標です。
それが原因で、周囲の人間と軋轢が生じます。
そんな時に弓彦は梨生と出会い、言われます。
「弓彦君は、お金が好きだけど嫌いなんだね 。かわいそうだね」
目標が自分の全てを奪っている呪縛になっている事を、ずばりといい当てられてしまいます。
真実ほど、ぐさりと心に刺さるものはありません。
梨生は現実を受け入れつつ夢を見ている
実は梨生は、育児放棄をされた子供です。
幸いきちんと面倒を見てくれる家庭があり、実の家族として扱われています。
本人も実の家族と思っていますが、自分が養子であり育児放棄された存在であることも知っています。
複雑な環境の彼女ですが、「自分は不幸だ」「自分はこんなに可哀想だ」とおくびにも出しません。
のほほんと生きつつ現実を受け入れて、夢も見ています。
本当の強さとは何だろう
弓彦はある時、一人で「夢のない世界」をさまよい気が付きます。
「怖い寂しい暗い、こんな世界であいつはずっと一人でいたのか」
子供のようにオロオロと泣きべそをかきながら。
お金を稼ぐのが悪い、というのではありません。
夢も希望もなくした自分が、どんなに寂しくて孤独で弱いのか。
本当に強いのはどういうことなのか。
理知的な台詞と心にすっと溶け込む物語
「フロイト1/2」は、時々理知的な台詞回しや言葉が出てきます。
これも現在の少女漫画では、まず見ないでしょう。
哲学的と先に書きましたが、説教臭くは全くありません。
ミヒャエル・エンデの作品に、どこか似た雰囲気を読後に感じました。
今でこそ読んで欲しい漫画の一つです。